2013年3月8日金曜日

連載シリーズ「ほんやマ.のほん」第45回

マンガに思いを入れる熱心さ

埼玉県春日部市にある団地横に「ほんやマ.」という
貸本屋がひっそりと建てられたのは2年前だ。
まだ24歳という田中雅規さんがはじめたのだが、
会員はいま約2,500人くらい。常時借りに来る子は
400人くらいという。1冊20円という、安値のうえ、
ここでは立ち読みがまったくの自由、というから
いまどき珍しい。
学校のある日は、登下校時がすごいラッシュに
なるが、夏休みはいつも3、4人が立ち読みに専念
しており、借り出していく子はつぎつぎと店に入り
帰っていく。昨年の夏休みには毎日立ち読みに
通った子(小学3年生)がいた。
「その子は今年は1回も来ませんね」。
家が転居したのか、ほかのやりたいことを昨年の
マンガと同じようにひたすらやっているに違いない、
と田中さんはその子の顔を思い浮かべるように
上を向いて笑った。
まだ全然読んでもいない新刊図書を売りに来て
小づかいをかせいで帰った子もいた。「きっと母親
が買ってきてくれた本なんでしょうね、ハハハ」
しかし、田中さんがいちばん印象に残っているのは、
小学3年生の子だ。その子は、「ダメおやじ」ばかりを
借り出すのである。15巻ほどしか置いてないのに、
この子の「ダメおやじ」借り出し冊数は50を超えている。
同じ巻を何回も読んでいたわけだ。



マンガは子どもにとってストーリーの内容を"理解する”
対象ではない。ひたすらまず”感じる”対象である。
それは子ども自身の生活の中でのうっ屈した苦しみ
のようなものかもしれないし、生きている楽しさで
あるときもあろう。
こうした「マンガというものが、読書という枠の外に
置かれているのはおかしい」というのは、同じ埼玉県
大宮市立漫画会館の清水徹さんである。この会館は
近代漫画に功績のあった北沢楽天を記念して47年に
建てられ、夏休みになると子どもたちの憩いの場と
なっている。市立としてはほかにない。清水さんは
3年前まで、小、中学校の校長さんであった。当時
マンガをよく知っていたわけではなく、むしろマンガ、
テレビが子どもによくないという考えがあったという。
漫画会館に来て、あまりに熱心にマンガを読む子ども
たちを見てびっくり。しかも実に静かなのだ。清水さんは、
子どもたちに好きな漫画家について聞いてみたり、
マンガについてよく話し合ってみたいと考えている。
清水さんのいう「マンガが読書の枠の外に置かれてきた」
状況は、逆説的に見るとマンガにとって幸福だったの
ではないか。「ダメおやじ」が読書のうちに入れられて、
内容理解だの、考える読書だのといわれて、読書指導
でもされていたら、あの子は50冊も借り出しただろうか。
心で感じるホンネの部分が、頭で考えさせられるタテマエ
にすりかえられるようなものである。


のびのび 1975年(昭和50年)掲載
(写真は、ほんやマ.のオリジナルに差し替えました。)


第44回に戻る第46回につづく

ようこそ!街のふるほんや『本のある暮らし』へ Part.36

令和6年( 2024年)新年明けましておめでとうございます。 街のふるほんや 本のある暮らし は 1月5日より営業開始いたします。 本年もよろしくお願いいたします。 本の寿命を考えたことがありますか? 大切に読めば、何年でも読めます。 本の中身も、何年経っても古びない、 流行に左...